心の医療における治療の目的は、うつ、不安、葛藤、迷いなど心理的苦痛や苦悩の軽減ですが、それらを外科的に取り除くことは、残念ながら出来ません。それらの苦痛や苦悩は苦しむ人の在り方や他者との関係性に根差しているからです。
ですから、治療を進めるためには、まず第一に、自らが置かれている状況と、苦痛のひき起こされる構造を知らなくてはなりません。
手垢にまみれた言い方になりますが、自己を知ろうとすることが第一歩となるのです。
自らを直視することは、時に苦痛を伴う作業ですが、自分についての新たな発見(気付き)をすることもあります。新しい知見はその人の経験を深く豊かなものとすることもあれば、さらなる人間的成長を促すこともあります。自らのうちにある成長する力を自覚することが、困難や葛藤を乗り越えてゆく機会になることもあります。自らの変化はその当然の帰結として、その人が認識する世界全体の変容をもたらすことになります。
これらの心理的作業を進めてゆく上で、クライアントの気付いていない無意識に光を当てることがセラピストの大きな役割ですが、それ以上に、セラピストがクライアントの感情の動きを汲み取り、受けとめ、共に吟味することがとても大切であることを強調したいと思います。