不眠は精神科や心療内科の診療で、非常によくみられる症状です。不眠には、主に次の4つのタイプがあります。
- 入眠困難:布団に入ってもなかなか眠れない。
- 中途覚醒:夜中に目が覚める。
- 早朝覚醒:早くに目が覚め、その後再び眠れない。
- 熟眠感欠如:十分な睡眠時間を取っても、ぐっすり眠れたと感じない。
不眠症の治療薬の種類
ベンゾジアゼピン系薬剤
ベンゾジアゼピン系薬剤には、催眠作用、抗不安作用、筋弛緩作用、抗けいれん作用があります。ブロチゾラム(商品名:レンドルミン)やフルニトラゼパム(サイレース)などが代表的な薬です。これらは、主に入眠を助ける効果があり、中途覚醒の改善にも役立ちます。ベンゾジアゼピン系薬剤は種類によって半減期(薬の濃度が半分に減るまでの時間)が異なるため、効き目の長さが違います。短い半減期の薬(例:トリアゾラム)は即効性が高く、長い半減期の薬(例:フルニトラゼパム)は持続的な効果があります。
副作用
依存、日中の眠気、ふらつき、転倒など。長期使用している方は急に服用を止めると全く眠れなくなったり、不安が強まったりすることがあります。けいれんを起こす可能性もあります。また、一時的な認知機能や記憶力の低下を認めることがあります。長期の使用で認知症の発症リスクが高まるという研究 (Baekら, 2020) もありますが、認知症リスクと関係しないという最近の研究 (Vom Hofe ら, 2024) もあり、長期使用と認知症リスクの関係は結論が出ていません。
使い分け
症状に応じて半減期を考慮しながら種類を選びます。依存性や上記した副作用があるため、短期間の使用が望ましいとされています。
Zドラッグ
ゾルピデム(マイスリー)やゾピクロン(アモバン)、エスゾピクロン(ルネスタ)が代表的です。これらは、主に入眠困難に効果的です。
副作用
ふらつき、転倒、夜間の異常行動(例:夜中に無意識で食べ物を口にするなど)、日中の眠気など。
使い分け
一時的な不眠に対し短期間の使用が推奨されます。
オレキシン受容体拮抗薬
スボレキサント(ベルソムラ)やレンボレキサント(デエビゴ)、ダリドレキサント(クービビック)は、脳内の覚醒を促す物質(オレキシン)の働きを抑えることで、深い眠りを促します。中途覚醒や浅い眠りの改善に効果的ですが、悪夢が副作用として現れることがあります。
副作用
悪夢、日中の眠気、頭痛など。
使い分け
依存性が低く、長期使用にも適しています。
ラメルテオン
ラメルテオン(ロゼレム)は、睡眠覚醒のリズムを調節するホルモンであるメラトニンの作用を受ける部位に働き、体内時計を整え、自然な睡眠リズムを取り戻すのを助ける薬です。早朝覚醒や熟眠感欠如などに効果的です。
副作用
日中の軽い眠気、頭痛など。
使い分け
生活リズムが乱れている方に特に効果が期待できます。
その他の薬剤
うつ病などによる不眠症には、トラゾドン(デジレル)、ミアンセリン(テトラミド)、ミルタザピン(リフレックス、レメロン)などの抗うつ薬が使われることがあります。これらは抗うつ薬ですが、深い眠りを促進する効果があります。
副作用
口の乾き、便秘、日中の眠気など。
使い分け
うつ病や抑うつ状態に伴う不眠に適しています。依存のリスクは低いです。
睡眠環境の改善

薬物療法とともに、眠る環境を整えることも大切です。以下のポイントを守ることで、睡眠の質を向上させることができます。
- 毎日同じ時間に寝起きする。
- 寝室を快適な環境に整える(暗く、静かで、適温に保つ)。
- 就寝前にリラックスする時間を持つ。
- カフェインは寝る6時間前、アルコールは寝る3時間前までに摂取を控える。
これらの工夫は薬の効果を高めるだけでなく、健康的な睡眠習慣の確立にも役立ちます。
最後に
不眠は、さまざまな精神疾患に伴いやすい症状です。不眠を引き起こすような精神疾患(例:うつ病や不安症)がないか確認し、それらの治療が不眠の改善に重要な場合もあります。当院では、これらの科学的根拠を参考にしながらも、患者さんと治療方針について話し合い、協力して治療を進めております。
睡眠薬をはじめ精神に作用する薬剤の多くは、効果や副作用の出方に個人差が大きいです。効果や副作用について心配なことがあれば、診察の際に遠慮なくご相談ください。
医師 杉原 玄一